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続米国の物価高を探る

原油価格WTIは昨年12月第3週以降8週連続で上昇し、2014年9月第4週以来7年5カ月ぶりの高値だ。当面、原油価格はウクライナ情勢次第だといえるだろう。この原油高によって、米消費者物価指数(CPI)は今年1月、前年比7.5%と5カ月連続で上昇し、1982年2月以来約40年ぶりの高い伸びとなった。食品とエネルギーを除くコアも6.0%と1982年8月以来である。ただし、コア指数から新車と中古車を除けば、3.8%にとどまり、物価高が米国経済のあらゆる分野に波及しているわけではない。

米物価高の主因はあくまでも賃金・給与の急激な伸びである。賃金・給与の拡大によるコストの上昇を製品・商品価格に転嫁した結果なのだ。米国民所得統計によれば、米民間部門の賃金・給与は2020年第2四半期、前年比4.2%減少したが、マイナスは1四半期にとどまり、第3四半期以降プラスで推移、しかも昨年第4四半期は10.4%の高い伸びをみせた。第2・3四半期は前年の不振により第4四半期よりも高い伸びだったが、第4四半期は前年が3.8%増でありながら、なお10.4%も増加した。これほど賃金・給与が高くなったのは1984年第3四半期以来、約37年ぶりのことである。

1930代以降のCPIと賃金・給与の前年比伸び率をみると、あきらかに両者の相関関係の強さを読み取ることができる。この賃金・給与の高い伸びが続くのであれば、米CPIも同じような傾向を辿るだろう。だが、賃金・給与の前年比伸び率は鈍化してきており、間もなく一桁の伸びに低下するだろう。そうなれば、CPIの上昇も鈍化し、沈静化に向かうはずだ。

米可処分所得も現金給付などによって、2019年の前年比3.8%から2021年7.5%、2021年6.1%と高い伸びを続けている。可処分所得の2021年・2016年比は1.31倍と2016年・2011年比の1.19倍をはるかに上回った。こうした可処分所得の著しい増加が、消費者の購買意欲に火をつけ、昨年12月まで10カ月連続の前年比2桁増と稀な消費行動となった。これほどの高い伸びは1984年まで遡らなければならない。

因みに日本の家計可処分所得の2020年・2015年比は1.09倍、2015年・2010年比1.01倍と米国とは全く比較にならない。米国のように予想外に可処分所得が増えれば、消費が活発になるけれども、ほぼ変わらず、先行きも良くてこれまでの延長線ではないかといった見通しでは消費意欲は湧かない。岸田首相の望む程度の賃上げでは消費意欲を掻き立てることはできないのだ。

米エネルギー価格(CPIウエイト100分の7.34)は前年比27.0%と伸びは2カ月連続で低下している。一方、新車(ウエイト、4.10)の価格は2021年2月の前年比1.2%を底に11カ月連続して高くなり、今年1月は12.2%である。中古車(ウエイト、4.14)は新車の供給不足などから2020年9月以降ほぼ2桁増となり、今年1月は40.5%へと高騰。エネルギーと車の価格が米CPIの上昇を主導しており、両者の価格が落ち着かなければ、米CPIは低下していかない。

FRBの米鉱工業生産指数によれば、昨年12月の米自動車生産指数は92.5(2017=100)と製造業(100.2)よりも7.7%低く、前年を11.8%も下回っている。他方、IT関連のハイテク部門の生産指数は135.0と高く、前年比5.5%増である。昨年12月の自動車の在庫・販売比率は1.57と前月比0.03ポイント、前年比では0.12ポイント上昇しており、緩やかではあるが在庫と販売は改善しつつある。耐久財全体の在庫・販売比率も上昇しており、半導体関連の不足も改善の方向にあるのではないか。

2021年の米新車販売台数は1,493万台と前年比3.2%にとどまり、2019年の1,700万台に比べれば10%以上低い水準だ。依然、新車は供給不足の状態にあり、そのしわ寄せが中古車に及んでいるのだ。だから中古車の値段が前年を40%超も上回るような、異常な状態が続いている。米国は車がなければ生活が成り立たない車社会だから、車の購入意欲は強く、価格が上昇しても、購入を控えるような行動は取らないのだろう。

日本の新車販売台数(登録車+軽自動車)は今年1月、前年比14.2%減と大幅なマイナスだ。2021年は-3.3%と2019年以降3年連続の前年割れであり、2018年はプラスだが、0.7%の微増であった。このように、新型コロナ以前から国内自動車販売は低調であった。新型コロナ以降、中古車が売れているかというと、今年1月は3.7%減と新車のような落ち込みではなかったが、マイナスである。2019年は0.1%と辛うじてプラスだったが、2020年、2021年の中古車は-0.3%、-2.7%と2年連続減。2020年の新車販売は-11.5%の2桁減だったが、米国のように中古に殺到するというようなことは起こらなかった。

新車不足のようだが、日本のCPIで取り上げられている自動車価格は昨年12月、前年比0.7%、軽自動車価格も0.4%と落ち着いている。2021年の自動車価格は前年比0.5%、2020年1.3%、2019年0.3%と微増で推移しており、米国とは対照的だ。自動車と軽自動車のCPIには中古も反映させているようだが、米国のように分かれてはいない。昨年の国内新車販売倍数は444万台、中古車登録台数は372万台であった。中古は新車の83.8%を占めており、米国のように、CPIの項目に新車と中古それぞれの指数を算出すべきだ。自動車と軽自動車のウエイトは1万分の224と49(計273)であり、米国の新車と中古計(824)の3割ほどである。米CPIには車の影響が大きいけれども、日本の車のCPIへの影響は米国の3割程度に過ぎない。

米国(100分の7.34)と日本(7.12)のエネルギーのCPIウエイトはほぼ同じ。1月の米エネルギー価格は前年比27.0%も上昇しているが、昨年12月の日本のエネルギーは16.4%にとどまっている。エネルギーのほぼ全量を輸入に頼っている日本が、なぜか米国よりも上昇率は低い。米国のCPIは車のウエイトが高く、エネルギー価格上昇率が高いことが、CPIを引き上げているのだ。

昨年12月、FOMCで示した2021年のPCE物価予測は5.3~5.4%、コアは4.4%だが、実際の数値は、いずれもこの範囲を超えている。2022年予測は2.2~3.0%、コア2.5~3.0%だが、昨年12月のPCE物価は5.8%、コア4.9%であり、2022年予測を達成するには大幅に物価を引き下げなければならない。利上げがその効果を発揮するにはかなりの時間を要し、すぐには効かない。政策金利とコア指数の前年比伸びとの関係をみると、政策金利の引き上げ過程では物価はまだ上昇しており、政策金利がピークを付けた後に、物価はピークアウトするケースもあった。利上げ期間は1年以上におよび、その後、物価は徐々に低下していくのである。今回の物価上昇は過去30年間で経験したことがなく、恐らく、大幅な利上げを長期間続けなければ、物価目標に近づけることはできないだろう。3月の利上げは第一歩だが、FRBが2%の物価目標を目指すならば、0.25%ではなく、0.5%上げる必要がある。FOMCは3月を含め年内7回開催される。年内、2%超の水準まで利上げしなければ、米国経済の過熱を鎮めることはできないのではないだろうか。

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