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見直すべき中央銀行の役割・目標

遅ればせながら株式関係者も実体経済に目を向けてきたようだ。トランプ大統領によって世界の政治・経済は掻き回されてきており、その影響が徐々に世界経済に現われてきている。IMFは9日、今年と来年の世界経済の成長率を3.7%と今年4月の予測からいずれも0.2ポイント下方修正した。ごたごたしている貿易問題や新興国の為替問題などが世界経済に悪影響していることは間違いない。世界経済の減速は企業業績の悪化でもあることから、株式は売られた。株式は、債券利回りの上昇の程度、これから公表される今年第3四半期の業績とそれ以降の見通し次第だと思う。
トランプ大統領はFRBの利上げに「完全に反対だ。FRBは異常だ」(10日)とこき下ろした。政治家のほとんどは利上げに反対だが、トランプ大統領ほど露骨ではなかった。もう少し言葉を選んだ。表に露わに出すか出さないかの違いだけだが。
米国の雇用は拡大し、経済成長率は高くなってきているが、物価はなお安定している。このような好調な経済下で利上げを継続すれば、景気の腰を折りかねないというのがトランプ大統領の見方なのだろう。
9月の米CPIは前月比0.1%と8月から0.1ポイント低下、前年比でも2.3%と7月の2.9%から鈍化しつつある。食品・エネルギーを除くコアは2ヵ月連続前月比0.1%、前年比も前月と同じ2.2%であった。
今回の景気拡大期、非農業部門雇用者数は年率1.67%で増加しており、前回のITバブル崩壊後の景気拡大期の伸びを0.27ポイント上回っている。失業率は2009年10月の10.2%をピークに今年9月には3.7%に低下した。約9年間で失業率は6.5ポイントも低下したが、CPIコアは前年比1.7%(2009年10月)から2.2%(2018年9月)への上昇にとどまっている。以前のような失業率が低下すると物価が上昇するといった失業率と物価の関係はなくなり、失業率が低下したからといって物価が大幅に上がることはないのである。
過去20年間の米CPI(年)を振り返ってみても総合指数の上昇率は、最高が2008年の3.8%、最低は2009年の-0.4%だった。この3.8%は1991年(4.2%)以来の伸びなのだ。コアの最高は2001年の2.6%、最低は2010年の1.0%である。雇用は大きくぶれるけれども、物価はそれほどぶれない。過去20年間のこうした物価の安定は、これからもそうやすやす崩れることはあるまい。
これほど雇用と物価の関係性が薄れているにもかかわらず、FRBは雇用の拡大と物価の安定を金科玉条にしているのだ。時代遅れとしか言いようがない。問題は物価にあるのではない。長期間、物価は安定しているし、ゼロ金利を続けても物価は上がらないことは、物価は経済問題ではないのだ。本当に問題にしなければならないのは株式・債券などの金融経済なのである。
金利に最も敏感に反応するのは実体経済ではなくマネーであり、マネーの出入りの激しいところが株式や債券なのだ。なにしろミリ秒単位の超高速取引が盛んに行なわれており、実体経済とはなにの関係もなく巨額のマネーが株式に流出入している。
設備投資などの実体経済に関わる決定は一旦支出すれば、固定化されてしまう。そして簡単に資金を引き上げることはできない。資金は機械や建物などに置き換わり、それらが長期的に収益を上げ続けなければならない。よって設備投資は長期のあらゆる要因を注意深く検討し、決定されるのであり、いまでは金利にはそれほど影響されない。むしろ将来の期待収益が高いか低いかが決めてとなる。しかも、今の大企業は内部資金が豊かであり、借入に頼らなくても設備投資が可能だから金利の重要性は薄れている。
本来の株式投資は設備投資のように長期の観点に立ったものであった。だが、現在の株式市場では超高速取引が行われており、その場合、重要なことは流動性があるかどうかであり、長期の視点などまったく考慮されていない。固定された投資を流動化するのであるから、流動性の確保はマーケットの生命線である。だが、株式市場は不完全市場であり、いざというときには流動性は極端に低下してしまう。自然災害などでスマホが繋がりにくくなるのと同じようなことが起こる。いやもっと酷いことが株式では起こり得るのだ。
物価はこれほど安定しているが、低金利を背景に金融経済は活況を呈している。これまでの経験からも、金融緩和期に株式は底を打ち大幅に上昇していることがわかっている。ITバブル崩壊後の金融緩和期もダウは約5年間上昇し続け、年率では12.7%も上昇した。金融崩壊後のゼロ金利政策期では、株式は2009年2月を底に上昇を続け、今年9月末までの9年7ヵ月では3.74倍、年率14.8%という異常な急騰をみせている。
株式は糸の切れた凧のように実体経済から離れてしまっており、早晩、崩落することになるだろう。FRBの金融政策の目標は物価ではなく、金融経済であり、目を凝らして見るべきところは株式なのである。株式が異常に値上がりしつつあるときは、政策金利を引き上げ、バブルにならないような行動を起こさなければならない。
速やかに株式を正常な状態に戻すことがFRBの主要な役目なのである。もっと早い段階でゼロ金利を脱し、利上げも積極的に進めていれば、今のような株式バブルは防げたのではないだろうか。株式が急騰する場面で中央銀行の政策が後手に回ったことがバブルを引き起こしたのだ。市場と対話しながら金融政策を運営していくというが、投機業者と対話してどうなるのだろう。投機を抑えていくのがFRBの最大の仕事ではないだろうか。
日銀は旧陸軍と同じで全滅するまで政策を変えないだろう。完全に思考停止の状態である。安部首相はトランプ大統領のようにあからさまには言わないが、日銀は安倍政権の傘下にあり、独立性は微塵もない。日銀の成れの果ては投機業者だ。
10月10日時点の日銀資産547.2兆円のうち国債は463.7兆円、上場投信21.6兆円である。日銀が資産をGDPほどに拡大させても日本経済はほとんど変化がないのだ。国債などは持ち手が変わっただけであり、民間非金融部門に資金が流れたわけではないからだ。政府と日銀のこのいかさま政策を止める手立てを真剣に考えなければならない。