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資本主義経済を歪める中央銀行

NYダウは下振れしつつある。週間、1,834ドル下落し、トランプ離れが進行しているようである。米大統領選のほかに欧州でのロックダウンなど、経済などの先行きがますます不透明になってきている。7-9月期の実質GDPは米国の前期比7.4%、ユーロ圏の12.7%とそれなりの回復がみられたが、10-12月期は反落するかもしれない。

欧米経済は年間で最大のクリスマス商戦までに新型コロナを鎮静化させることができるかどうかに掛かっている。気温と湿度の低下によって、日本でも毎年インフルエンザが流行る時期に差し掛かっているが、新型コロナも勢いを増すと考えられ、年末年始商戦も例年と同じというわけには行くまい。

米株が下がり、対ユーロでドルが上昇したことから、商品市況は下落した。なかでも原油価格は前週比マイナス10%超下落し、今年6月1日以来5カ月ぶりの低い水準である。原油価格の下落は、日本にとっては輸入額の減少となり、貿易黒字要因となる。今年度上半期の日本の輸入に占める鉱物性燃料比率は14.2%である。輸入総額は前年比-18.1%だが、鉱物性燃料だけで-9.5%引き下げている。世界経済の低迷により、輸出の前年割れは続いているが、9月までの3カ月は輸出よりも輸入の減少率が大きく、輸出超となっている。輸出が輸入を上回る黒字の状態は円高ドル安を招く。それだけ原油安の及ぼす影響は大きく、日本経済を揺さぶる要因になるのだ。

向こう1、2年の世界経済の足取りは不安定であり、原油需要が強まることはなく、長期的に原油価格は低位で推移するはずだ。そうであれば、日本の貿易収支は黒字基調を維持することができ、為替は円高ドル安に向かうだろう。これまでも、事実、そのように為替相場は動いてきた。

新型コロナが欧州で再燃し、外出規制等を強めたことがユーロに対してドルを強くしているが、対円ではドル安である。日本の貿易黒字が拡大することになれば、円高ドル安は今の水準から1ドル=100円を目指すだろう。

米大統領選でバイデン勝利の可能性が高まっており、積極的な財政支出が期待されている。米株式もバイデン当選を織り込みつつあるけれども、大統領の交代は、時代の区切りとなり、異常に膨らんでいる株式が実体経済に近づくことになるかもしれない。米株式が10%調整するだけで5兆ドルが消えることになり、例えば2~3兆ドル規模の経済対策を打ち出しても、株式の減少額を補うことができない。

米株式の下落はドル離れを誘い、円高ドル安は急速に進行するだろう。欧州や日本など世界中の資金運用機関が米株運用しており、そうした米株運用の一部は米株売りとドル売り自国通貨買いの行動を取るはずだ。先週号でも指摘したが、株式に米債の下落が加われば、日米欧の中央銀行の屋台骨が揺らぐことにも成り兼ねない。

円高ドル安は日本の輸出企業の収益悪化となり、日本株も今の株価を維持することはできなくなるだろう。大企業製造業の営業利益は2018、2019年度と2年連続の減益だ。2019年度は前年比29.7%減と2008年度以来11年ぶりの大幅減益となった。だが、2019年の日経平均株価は18.2%上昇している。第2次安倍政権発足の2012年から2019年まで日経平均株価が下落したのは2018年(-12.1%)だけであり、後の7年はいずれもプラスであった。一方、同期間、大企業製造業の営業利益(年度)が増益だったのは3回、5回は減益であった。

1989年から2011年までの23年間を調べてみると、株式はプラスが10回、マイナスが13回である。一方、営業利益のプラスは13回で、マイナスは10回であった。株式は営業利益だけではなく、その他もろもろの影響を受けるため、営業利益だけで株式を判断することは危険だが、それでも営業利益の株式影響力は、ほかの要素よりも大きいことは間違いない。 

2012年以降の両者の関係は非常に薄れている。減益の八分の五に対して株式のマイナスは八分の一だからだ。2013年4月、政府と日銀一体の(ETF購入拡大を含む)超金融緩和策の導入が、株式上昇の役割を果たしたのである。そうでなければ、株式と利益の関係がこれほど不明瞭になることはなかったであろう。株式の背後に政府と日銀が、常に控えていることの暗示と実際に巨額資金の株式投入という現実とが、株価と利益のこれほどの乖離を生み出したのである。日本の株式は国家管理下に置かれているといっても過言ではない。

かつての公的機関による株式購入がいずれも不首尾に終わったように、国家管理といえども万全ではない。日銀や公的年金の買いで信託銀行の株式保有額比率は2019年度末、21.7%、2013年度末の17.2%から4.5ポイント上昇している。2014年度以降6年連続、買い越しており、2019年度末の保有額は119.1兆円だ。

同期間、個人の保有比率は18.7%から16.5%に低下、保有額は90.4兆円、事業法人は21.3%から22.3%へと上昇し、122.1兆円保有。最大の保有者である外人は30.8%から29.6%とやや低下しているが、162.4兆円保有している。

10月20日現在、日銀のETF保有額は34.6兆円だが、外人保有額の2割程度であり、米株の大幅な下落に伴う日本株の外人売りが本格化すれば、とても防ぎきれるものではない。さらに、事業法人が依然122.1兆円も保有していることも問題である。1987年度末には30.3%も保有していたが、バブル崩壊によって、保有比率を落としていったが、2000年度以降、保有比率は21.2%~22.6%の狭い範囲に収まっている。巨額の持ち合い株式を保有し、不良資産で四苦八苦した1990年代を忘れてしまったかのようだ。株式が急落すれば、企業のバランスシートは一気に悪化し、それまでの蓄積を吐き出してもまだ不足する事態に陥り兼ねない。

ゼロ金利やトランプ大統領の強力な支援がバブルと言えるまで株式を押し上げてきたが、こうした最強の株式振付師も舞台から去ろうとしている。2019年までの10年間でNYダウが年間で下落したのは、2015年と2018年の2回であり、しかも下落率は2.2%、5.6%といずれも小幅である。その結果、2019年末と2009年末を比較すると2.73倍となっており、名目GDPの1.48倍をはるかに上回っている。株式至上政策遂行の成果と言えるが、こうした無謀な政策によって持ち上げられた株式は早晩、崩れ落ちるだろう。

FRBは株式を軟着陸させようと策を練るだろうが、最後は日銀のように、株式を直接購入する方法しかない。そこまで行けば、米資本主義の終焉となる。FRBによる株式購入の影響力は日銀の比ではなく、中央銀行の株式介入を推し進めることになるかもしれない。

株式の世界的な高騰が資産格差を招来しているが、その張本人は中央銀行なのだ。発行市場は縮小する半面、流通市場が活況を呈するという本来の株式市場から逸脱してしまっている。これも中央銀行が大いに荷担した結果だ。中央銀行は資本主義経済を適正径路に導く役割を担っているとされているが、株式市場の賭博化や資産格差の拡大など資本主義経済を一層歪にしているのである。

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