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金融政策は株高を維持できるか

新型コロナの感染者や死亡が依然多いにもかかわらず、米国経済は日本や欧州に比べて強い。1月の米小売売上高は前月比5.3%、前年比でも5.8%伸びた。1月の住宅着工件数は前月比-6.0%と減少したが、許可件数は前月比10.4%、前年比22.5%も急増しており、住宅はブームといえる。過熱感は中古住宅販売にはっきりと表れている。1月、前月比は0.6%だが、前年比では23.7%に急増している一方、在庫は25.7%減となり、適正水準を大幅に下回った。その結果、販売価格の中央値は前年比14.1%増の30万ドル超に上昇。また、昨年11月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前年比9.1%と2014年5月以来6年半ぶりの高い上昇だ。昨年10-12月期の米名目GDPの前年比の伸び率はマイナスから抜け出ていないが、特に、金利の影響を受けやすい自動車などの耐久財や不動産は超低金利に支えられ、需要が旺盛になってきている。

需要の拡大を背景に、1月の米PPI(生産者物価指数)は前月比1.3%と2010年以降では最大の伸びとなった。エネルギー・食品を除くコアも前月比1.3%、前年比では2.0%にそれぞれ上昇した。こうしたPPIの上昇が持続し、PCE(個人消費支出)物価に波及するかどうかだが、しばらく様子をみなければわからない。

ただ、2月の力強い米PMIをみると物価上昇圧力はやや増しているようである。米総合PMIは58.8と1月から0.1ポイントの微増だが、サービスも製造業とほぼ同じ水準にあり、米国経済は全体的に底上げの状況にある。そこが日本やユーロ圏とは違うところなのである。日本とユーロ圏のサービスPMIは45.8、44.7と50を大幅に下回っており、サービス業が経済の足を引っ張っている。

1月の米CPIは前月比0.3%、コアは0.0%と引き続き落ち着いている。これに比べれば、中古住宅価格の上昇は極めて高いと言える。FRBのゼロ金利政策によって、昨年12月、米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の住宅ローン金利(30年物)は2.66%と過去最低を更新した。こうした、住宅ローン金利の低下が中古住宅を始めとする住宅市場を活気付けているのだ。ただ、最近の米国債利回りの上昇に伴い、直近、住宅ローン金利は2.81%に上昇してきており、金利の底打ち感が鮮明になれば、駆け込み需要がさらに強くなるかもしれない。

米株の過去最高値更新などにより、原油価格や銅などの商品相場も急騰しており、CRBは過去1カ月で7.9%も上昇した。株価の上昇によって、投機余力が生まれ、そうした金が商品や住宅関連に向かっているのだ

なにごとも、米株次第である。結局は、FRBのゼロ金利による米株の高騰が、商品相場や住宅価格を実体経済の伸び以上に引き上げ、ついには債券利回りにも影響してきている。債券利回りの上昇は株式の現在価値を引き下げるので、さらに利回りが上昇すれば、株式は売られやすくなる。FRBがいくらゼロ金利を長期化させるといっても、債券相場は独自の動きをしていくはずだ。いつまでもFRBの金融政策が通用するわけではない。

PMIがこれほど米国経済の堅調さを示しているにもかかわらず、ゼロ金利と債券買いをFRBが継続することは、金融経済を主眼に政策運営していることになる。株高が債券利回りの上昇を引き起こして、それが株高から株安への引き金になるだろうが、金融経済が実体経済からの乖離を速やかに取り除くためには利上げをしなければならない。利上げが遅れるほど、両者の乖離は大きくなり、その調整がより困難になるからである。

米株式の過去最高値更新などによって、日経平均株価も3万円の大台を回復した。30年半ぶりだ。2月のPMIが47.6のように足元の経済は悪い。ワクチン接種が始まったとはいえ、年内にどの程度接種が進むのか皆目見当がつかないのでは、経済の先行きも不透明ということだ。先行きどうなるかわからないのだが、株式を買う動きが強まっている。

日銀がゼロ金利を止めることはないという前提で、市場参加者は株式の先行きを判断しているのだろう。さらに、日銀が株式を購入していることは、下落すれば、日銀保有の上場投信(35.6兆円、2月10日時点)が巨額の損失を被ることになるので、自ら株価が安くなるような金融政策は採用しない、と踏んでいるのだろう。

日銀がこれからもゼロ金利、国債・株式買いを続け、利回りと株価に影響力を行使できたとしても、米金利と株式に波乱が起これば、日本の国債と株式も大波をうけることは間違いない。特に、東証一部売買代金の約7割を外人が担っているために、米株崩落に伴う外人の雪崩のような売りのなかでは、日銀も為す術がなくなる。35兆円の株式が、瞬く間に半値になるのだ。

共産主義国家のように日銀と公的年金が巨額の株式を保有することは、市場機能を重んじる資本主義経済とは相容れない。国と日銀は資本主義経済を自ら否定しているのだ。また、国や日銀は生き馬の目を抜く博打場で勝ち抜くことはできない。買い手として登場するだけで、売り手にはならないので存在感を示すことができているのだ。だが、永久に持ち続けるわけにもいくまい。いつかは、退場しなければならない。日銀が売りそうだという兆しだけで、株式は激しく動揺することになり、おそらく、売りが売りを呼ぶ展開になるだろう。

いままで日銀は株式を買い続け、保有額は35兆円にもなった。それだけ、市場から株式を吸い上げてきたのだ。浮動株が少ない株式はますます品薄となり、買いが入れば、需給が逼迫しているため、値上がりしやすい。2019年末から今年2月19日までの値上がり率は日経平均株価の26.9%に対してTOPIXは12.1%である。さらに、事業法人も自社株買いに積極的であり、『法人企業統計』(資本金10億円以上の大企業)によれば、2019年度末には20.6兆円と2013年度末比9.2兆円増加している。東証一部の上場株式数は最多であった2015年末の4,024億株から2020年末には2,842億株と29.4%の減少だ。これによって、当期純利益が変わらなければ、一株当たり利益は4割以上増加することになる。

上場株式数の減少という株式上昇要因はあるが、日経平均株価は3万円まで上昇し、東証一部の時価総額は721兆円に膨らんだ。時価総額・名目GDP(昨年10-12月期)比率は130%とバブルの頂点である1989年末(142%)に次ぐ、過去2番目の高水準である。売買高・名目GDP比は過去最高水準にあり、流通市場は異常な活況を呈している。

米国の「ロビンフッド」のように、日本でもスマホからの株式売買注文は増えているのだろう。株高についつい釣られて安易に株取引をはじめた人も少なくないはずだ。株式取引をはじめれば、値段が気になるのは人間の性だ。だが、多くの人が博打にのめり込むことになれば、本業が疎かになることは言うまでもない。博打が広く行われることになれば、社会全体によからぬ影響を及ぼすことになるだろう。

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