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金融部門は太り、非金融部門は痩せる

自民党安倍総裁の金融緩和発言の余韻がまだ持続しているのか、11月最終週もやや円安ドル高で終わった。株式は続伸する半面、10年物国債利回りは03年6月第3週以来9年5ヵ月ぶりの低い水準に低下した。普通、円安ドル高になれば、輸出増による景気刺激、物価上昇が予想され、国債利回りは上昇するが、今回は反対に利回りは低下している。国債利回りの低下は期待収益率の低下を示唆していることから、株式にとってマイナス材料になるはずだが、そのようなことにはお構い無しに上昇、日経平均株価は今年4月第4週以来の高い水準に回復し、昨年末値を1,000円近く上回った。

今年9月末の内国債発行残高は803.7兆円と増加の一途を辿っているが、国債利回りは低下傾向にある。06年半ばをピークに、国債利回りは6年以上の長期低下基調を持続している。これだけ国債を発行しても国債価格は上昇し、利回りが下がることは、国債の需給では国債価格は決まらないことを裏付けている。長期期待収益率の低下と短期金利ゼロの永続化が国債利回りの低下を主導しているのである。国内に国債を購入する資金は十分にあり、金融機関は国債の購入しか資金の使い道はない。

 国債利回りは低下しているが、貸出金利はそれほど下がらず、非金融業の収益は悪化しているが、金融機関の収益は悪くはない。卸値は下がっているが、小売値はそれほど下がらなければ、自動的に利鞘は拡大し、金融機関の儲けはおおきくなるのである。景気後退により、非金融機関の収益は一層厳しくなるが、社会のインフラとも言える金融機関の懐は暖かくなるという理不尽なことが起こっている。

 すでに始まっている縮小経済では所得分配が最大の経済問題になる。小さくなっていくパイの取り分をどのように分けるかということである。新古典派のように市場に分配機能を委ねれば、強いもの勝ちになり、不公平はますます拡大することになる。所得税の累進税率の低減化が進められたことや配当、譲渡所得の税率低下で、所得格差が広がり、これも消費を弱めている。こうした個人間の所得格差の問題に加えて、社会制度や慣習などに基づく業種間の収益格差も是正しなければならない。不当に利益を上げている部門に対しては、公平な観点から、制度や慣習を取っ払い、同じ条件のもとで商いをさせ、既得権益を剥奪しなければならない。

 各政党の選挙公約を眺めると、経済成長に拘っている。民主党は2020年度までの平均で名目3%程度の成長実現を目指し、自民党はあらゆる政策を総動員し、名目3%以上の経済成長を達成するそうだ。だが、日本経済は縮小軌道に乗っており、経済規模の拡大はせん無い事なのだ。昨年度までの10年間の名目経済成長率は年率0.7%のマイナスであった。人口減と高齢化が一層加速するなかではマイナス幅はさらに拡大するだろう。

 2012年7-9月期と09年7月の衆議院解散時に比べて、実質GDPは24.5兆円増加したが、これは物価が下落したからであり、名目では横ばいである。今年7-9月期の名目GDPは469.7兆円(年率)であり、内閣府が公表している1994年1-3月期以降では最低水準に近い。因みに、1994年1-3月期は495兆円である。このような事態になっていながら、まだ経済成長を唱えるとはなんと現実離れした考えなのだろう。政治屋のいうことは信用できない一例である。

 経済が縮小していて株価が上昇することなどあり得ない。もちろん短期的な上げ下げはあるけれども、トレンドは国債利回りが低下しているように、基調は下げである。過度に上がれば実体経済からの逸脱であり、その反動は大きくなる。政治屋の戯言に反応する株式の幼稚さが今回も露わになった。

 10月の鉱工業生産指数は前月比1.8%と4ヵ月ぶりのプラスとなった。出荷は横ばい、在庫は増加し、在庫率は減少した。電子部品・デバイスが14.7%も伸び、ウエイトが大きいためこれだけで生産指数を1.2%引き上げた。電子部品・デバイスの生産は拡大したが、在庫と在庫率は前月を上回っており、在庫調整は進展していない。液晶テレビとDVDビデオは前年比96.1%、90.1%それぞれ減少し、壊滅的である。

資本財(輸送機械を除く)の生産は前月比4.5%減、出荷は6.7%減と弱く、企業は設備投資を中止、先送りしているようだ。資本財の出荷は5ヵ月連続減だか、在庫は10月も増加し、在庫率にいたっては7ヵ月連続で増加し、前年比でも19.7%増と予想以上に設備投資は冷え込んでいる。

鉱工業生産の在庫、在庫率水準は依然高く、このまま生産が回復するとは考え難いが、生産予測調査によれば、生産指数は11月の0.1%減後、12月は7.5%もの急増になっている。12月は一般機械、電子部品・デバイス、輸送機械などいずれも大幅な伸びを見込む。在庫調整が一気に進む状況ではなく、このような生産増はあり得ない。

10月の小売業販売額は前年比1.2%と3ヵ月ぶりのマイナスになり、伸び率は今年3月をピークに下降線を辿っている。『家計調査』でも、10月の消費支出は0.5%前年を下回り、2ヵ月連続減である。これまで消費を支えていた耐久財が6.7%減と今年2月以来のマイナスなり、消費は失速している。

輸出の前年割れは続き、外需で潤うことも無く、消費がさらに絞られることになれば、それがいまでも悪い設備投資に追い討ちをかけることになろう。米国経済も引き続き足取りは重く、欧州経済もユーロ圏失業率が10月、ユーロ導入以来最悪の11.7%に上昇するなど、深刻な状態に陥ったままである。つまり、日本は輸出にまったく期待できず、自力で後退から抜け出さなければならないのだが、そのような力は日本にはない。

10月の米個人消費支出は前月比0.2%減と5ヵ月ぶりのマイナスだ。耐久財が1.9%減少したほか、サービスも0.1%と弱い。個人消費支出の不振の原因は伸びない所得にある。過去半年の可処分所得をみても伸びはきわめて弱く(10月は横ばい)、実質ではほぼ横ばい状態であり、これでは個人消費支出は伸びるはずがない。いろいろな経済指標がでているが、GDPの約7割を占める個人消費支出が増加しなければ、米国経済は動かないのである。

 7-9月期の米企業収益は前年比12.5%増加したが、収益を伸ばしたのは金融部門であり、30.4%も拡大した。一方、非金融部門は6.4%増にとどまり、前期比では0.1%だが減益になった。金融部門が好調なのは、FRBがゼロ金利政策を続けているからだ。ゼロ金利の恩恵を最も受けるのは金融部門であり、世界中の金融機関がゼロ金利の恵みを存分に享受している。金融危機を起こした張本人の金融機関は、4年前のことなど省みることなく、低コストのマネーを駆使してマネーゲームに興じているのである。いったい、金融危機の前と後ではなにが変わったのだろうか。焼け太りのように金融部門は太り、非金融部門はみすぼらしくなったことくらいだろう。 

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