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雇用不安による消費の萎縮

米株の回復をみると新型コロナウイルスは収束したかのようだ。ナスダック総合は過去最高値まであと3.3%のところまで戻しており、前年比では27.3%増である。米株の力強い戻りによって主要国の株式も堅調である。日経平均株価も2月の高値まで9.2%のところまで戻している。米株の復調は株式だけでなく、商品相場にも波及しており、原油も30ドル台半ばまで上昇してきている。米株の強い動きは世界の金融・資本市場を活気づけている。

株式が活況を取り戻すことができたのは、ひとえに中央銀行が無軌道な金融政策を推進したからだ。何かの時には中央銀行と政府が強力な株式支援策を打ち出し、決して暴落などしないと株式関係者は想定しているようである。

5月20日までの3ヵ月間で、日銀は上場投信を3.1兆円購入した。1年間では6.6兆円購入していることから、直近3ヵ月の購入額がいかに大きいかがわかる。ほぼ同じ期間に外人は3.5兆円を売り越しており、この外人売りを日銀が買い向かったと言える。さらに3月、4月の信託銀行の買い越し額は1.4兆円に拡大しており、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による株式買いもあったようだ。米国では大統領と中央銀行が株高方針を打ち出し、株高を演出しているが、日本では日銀と国が株式を買うという直接介入によって株価を引き上げている。

さらに中央銀行の国債購入は国債利回りをゼロ前後へと極端に引き下げることで、株式価値を引き上げている。米10年債の利回りは0.65%と過去最低の水準にある。実体経済から判断してもあり得ない低水準であり、株高が示すような明るい経済が期待できるのであれば、国債利回りは今のようなゼロの水準から離れてよいはずだ。

一方、実体経済は青息吐息の状態が続いており、先行きを見通すことはできない。新型コロナが収束するかどうかにすべては掛かっており、持続するかぎり、サービス産業を中心に雇用の厳しい状態が続くことになり、そのことが消費支出の削減に走らせている。

5月のミシガン消費者信頼感指数は72.3と前月よりも0.5ポイントの回復にとどまり、米消費者心理は依然冷えたままである。『消費動向調査』によると、日本の消費者態度指数も5月、24.0と前月比2.4ポイント改善しただけで、2008年よりも低い水準にある。特に、雇用環境は16.8、前月比1.8ポイントの改善にとどまり、なによりも雇用不安が現下の最大の問題であることを示している。

『労働力調査』によれば、4月の失業率(季節調整値)は2.6%と2ヵ月連続で上昇、特に、男は3ヵ月連続の上昇で2.9%と2017年9月以来2年7ヵ月ぶりの高水準となった。失業者数は189万人に増加したが、非自発的失業者が49万人に増加している。就業者は6,628万人、前年比80万人減少したが、非正規は97万人減と2ヵ月連続の減少だ。なかでも宿泊業・飲食サービス業と卸売業・小売業は46万人、33万人それぞれ減少し、特に前者は就業者数の11%に当たり、深刻さを増している。

就業者は6,628万人だが、そのうち休業者が597万人いる。休業者は3月の前年比31万人から4月には前年比420万人と急増し、就業者の9.0%が休業者という事態となった。休業者を正規雇用と非正規雇用に分ければ、前者の193万人に対して後者は300万人だ。正規雇用の休業者の割合は5.4%だが、非正規雇用は14.9%と高く、非正規雇用の不安定性があらわれている。

非正規雇用の休業者300万人が休業から就労に変わることができればよいが、休業が長引き、失業することになれば、失業率は5%を超えることになるだろう。4月の失業者は189万人で失業率は2.6%である。これに200万人の失業者が加わると、失業率は6%近くまで上昇することになる。1953年1月以降では最悪の2009年7月の5.5%を超えるかもしれない。

休業者は597万人、前年比420万人も急増すれば、消費が不振になるのは当然である。先行き休業から失業になるかもと不安が頭をよぎるからだ。失業しても職をすぐに見つけることが可能であれば、不安は解消されるが、4月の新規求人数は前年比31.9%減少している。そのため、新規求人倍率は1.85へと低下しており、昨年12月からは0.59ポイントの大幅な低下である。

雇用環境の悪化により、小売業販売額は急減している。『商業動態統計』によると、4月の小売業指数(季節調整値、2015=100)は89.0、前月比9.6%落ち込んだ。織物・衣服等や自動車の指数は前月比39.8%、23.9%それぞれ大幅に低下し、48.1、80.7となった。

小売業が悪化すれば、生産も厳しくなる。4月の鉱工業生産指数は前月比-9.1%と3ヵ月連続の前月比マイナスとなり、前年比では14.4%も落ち込んだ。特に悪いのは自動車工業で前月比-33.3%の激減となり、前月比への寄与度はマイナス5.1%である。日本の自動車産業は輸出依存度が高く、輸出が5割超減少している状態ではなすすべがない。雇用の悪化により、世界的の耐久消費財の購入は見送られており、自動車需要の回復は遅れるだろう。

楽観的な米国人でも将来への不安が著しく高まっている。貯蓄・可処分所得比率は4月、33.0%と前月の12.7%から急上昇しており、1959年の統計開始以来の高い貯蓄率である。賃金・報酬は前月比8.0%減少したが、家計への現金支給と失業給付などで可処分所得は12.9%増加した。だが、個人消費支出は前月を13.6%下回り、貯蓄は2.9倍に拡大した。

日本人は米国人よりも貯蓄率が高いことから、一人当たり10万円の給付も大半は貯蓄に回るだろう。10万円の多くは金融機関に預けられるが、金融機関も預金のすべてを貸し付けることはできず、一部は日銀の当座預金に預けられる。それを元手に日銀は有価証券を購入することができるが、国債の購入であれば10万円の給付金の一部は国に還流することになる。

給付金は最終消費支出として使われなければ、実体経済にプラスの効果を及ぼすことはできない。だが、お金が消費に使用されるには雇用不安の払拭が先決である。雇用がどのようになるかわからない不安定な状態で、消費支出を増やす行動を採る人はほとんどいないからだ。597万人の休業者が今後、さらに増加するのか、それとも減少に向かうのか、その動向が消費の帰趨を握っている。

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