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雇用拡大するが低生産性で産出不振の米国経済

米株式は過去最高値を更新しているが、商品市況は悪化している。円安ドル高により日本株も3週連続高で日経平均株価は1,110円も上昇した。CRB指数は180を割り込み、昨年9月1日以来約8ヵ月ぶりの低い水準だ。フランス大統領選(第1回)を控え、ユーロが過度に不安視されていたが、EU派が選出される可能性が高まったため、ユーロが買われ、円は弱含んでいる。対ドルでユーロは昨年11月8日以来のユーロ高だ。ドル安ユーロ高になればドル建ての商品は買われるはずだが、今回は原油、金、銅など主力商品が値下がりしており、WTIは1ヵ月で約10%も下落した。
4月の米失業率は4.4%と金融危機以前の2007年5月以来約10年ぶりの低い水準に戻った。白人の失業率に限れば3.8%、アジア系は3.2%とさらに低い。学歴別では大卒以上では2.4%と完全雇用状態である。非農業部門雇用者も4月、前月比21.1万人増と増加傾向を辿っている。米国経済は雇用については満足できる状態に達したといえる。
このような完全雇用状態でも政策金利は0.75%と異常に低い水準にあり、実質ではマイナスとなる。10年前と失業率は同じだが、当時の政策金利は5.25%である。今年1-3月期の米実質経済成長率は前年比1.9%だが、2007年4-6月期は1.7%と10年前がやや低い。3月の米消費者物価指数(食品・エネルギーを除く)は前年比2.0%、2007年5月も2.2%と小差で、政策金利だけが著しく異なっていることがわかる。
それでもFRBは利上げに慎重なのである。「完全雇用」と「物価安定」が達成されているにもかかわらず政策金利の引き上げは石橋を叩いて渡るという態度である。先週のFOMCでは金利を据え置いた。これほど緩慢な利上げは過去にはない。名目GDPが前年比4.0%伸びていながら、政策金利が0.75%ということは、実物収益率が資金調達コストを大幅に上回っていることでもある。
それでも米国の資金需要は強くはない。短期金利は上昇してはいるが1.18%、10年債利回りは2.34%と昨年末を下回っている。このような低資金調達コストでも設備投資意欲は盛り上がらないのである。それだけ実物収益を上げるだけの投資機会が米国では少なくなってきているのだろうか。
実物資産への投資する企業家のアニマルスピリッツが衰えているのだろうか。実物資産への投資は、成果が得られるかどうか長期間待たなくてはならない。しかも成功するかどうかはまったくわからない。起業するかどうかはアニマルスピリッツに掛かっているのだ。それは大航海時代とすこしも変わらないのである。
今は、何年も先の収益ではなく、もっと手っ取り早い金儲けが選好されているように思う。うまくいけば瞬時に稼げることができる株式や為替への投資が簡単にできる。資金コストの低下が株式等の金融経済を活発にしているのだ。政策金利が低い時には、金融市場は活況を呈し、しばしば活況を通り越してバブル化するものである。
FRBは「物価安定」を目標に掲げるが、年平均で消費者物価指数(食品・エネルギーを除く)が3.0%を超えたのは1996年以降、一度もない。過去21年のうち6年は2.0%未満であった。第2次石油危機に伴う物価高騰をピークに、消費者物価指数は右肩下がりに転じている。もはや物価安定は目標に掲げるほどの問題ではなくなったのである。
むしろFRBが目標に掲げなければならないのは、金融経済はあくまでも実体経済の脇役であり、実体経済が程よく成長できるように金融を操作することである。実体経済を支える役割に徹するように仕向けることである。金融経済が全面に登場し、経済の主役として立ち振る舞うことになれば、経済はうまくいかなくなる。そのように金融経済を調整することがFRBに課せられた最大の役割ではないか。
米国経済の雇用は拡大しているが、平均時間当たりの賃金は4月、前年比2.5%と昨年末をピークに鈍化している。消費者物価の上昇率を差し引けば、実質の伸びはほぼゼロになる。非農業部門雇用者数は前年比1.6%増加しているが、1-3月期の実質GDPは前年比1.9%増にとどまる。FRBが利上げした2015年10-12月期以降の実質GDPの前年比伸び率は2.0%以下である。ゼロ金利や国債購入の長期化により、超金融緩和に経済が慣れてしまい、僅かな金利上昇でさえも、実体経済に悪影響を及ぼしているのかもしれない。
ゼロ金利によって、自動車等の耐久消費財の伸びは高く、経済を牽引していたが、自動車・同部品の生産は減速しており、今年1-3月期は年率前期比3.8%減少した。金利の上昇は緩やかだが、自動車や住宅等の耐久財の需要には徐々に金利の上昇が影響していくだろう。
経済成長は労働力と労働生産性を加えたものだが、今年1-3月期の非農業部門雇用者は前年比1.6%増加しているが、労働生産性は1.1%にすぎない。2016年の労働生産性は前年比0.2%と低く、2011年以降6年連続1.0%未満である。2007年までの10年間の平均労働生産性は2.8%であり、これに比べると2016年までの6年間の労働生産性は極端に低下しているといえる。労働は投入しているけれども、労働生産性が低く、産出量の伸びは緩やかになり、GDPの伸びも低迷している。それではなぜ労働生産性が低下したのか。
2006年から2016年までの10年間の設備投資(名目)は30.0%増加したが、2006年までの10年間では70.3%増である。これだけの設備投資拡大の差が労働生産性を左右したのだ。労働力さえ投入すれば産出は増えるけれども、設備投資により新しい機械を導入することで生産性は著しく向上するのである。設備投資だけでなく、日々の少しの作業や工程の改善によっても生産性は向上するだろう。米国ではそうした改善・工夫を凝らさなければ生産性の向上は望めず、産出も増加しないだろう。米国経済は金融政策ではどうにもできない大きな問題に直面しているといえる。

◆今後数週間、備前滞在のため休みます。

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