Share |

非正規・低賃金雇用では消費は伸びない

雇用環境は良くなってきており、3月の失業率は前月と同じ2.8%と約23年ぶりの低い水準だし、有効求人倍率も1.45倍と1990年11月以来26年4ヵ月ぶりの改善を示した。3月の米失業率は4.5%、ユーロ圏は2月、低下してきているとはいえ9.5%と高い。日本の雇用環境の良さが群を抜いており、日本はほぼ完全雇用といってよいだろう。
第2次安倍内閣が発足した2012年12月の失業率(4.3%)よりも今年3月は1.5ポイント低下している。2008年の金融危機後の世界経済の悪化により、4%程度であった失業率は、2009年7月には5.5%に上昇した。だが、失業率はこれがピークとなり低下しつつあった。安倍氏が首相として再登場したのは、失業率がピークをつけてから3年5ヵ月後であり、雇用は改善する過程にあった。
今年3月は第2次安倍内閣発足から4年3ヵ月も経過しており、失業率の低下は想定外のことではない。政府は雇用の改善をよく取り上げ、安倍内閣の成果だと強調するが、表面的な数値だけではなく、雇用の内容がどうであったかこそが俎上に載せられ、その成果が問われるべきではなかったか。
2016年の非農林雇用者数を2012年と比較すると、235万人増加している。製造業は18万人増、情報・通信も19万人増である。最大の増加をみせたのは医療・福祉の分野で101万人増と4年間の増加数の43%を占めている。
2013年以降の雇用形態別雇用者数(役員除く)によれば、2016年の雇用者数は2013年比178万人増加しているが、非正規がその62.9%の112万人を占めており、雇用が伸びたとはいえ低賃金の職員・従業員であり、低賃金・長時間労働等雇用の内容は悪くなっているのだ。企業にとっては、低賃金・長時間労働は利益の源泉なのである。国内で利益捻出は労働・福祉コストの削減によるところが大きいのではないか。残りは輸出によって、さらにいえば為替相場によって利益は著しく左右されていると言えるだろう。
一見、雇用環境は相当改善したようにみえるが、雇用されたのは主に非正規・低賃金労働者なのである。雇用の内容はまったく貧弱であり、これでは消費を拡大させることはできない。
事実、消費支出は低迷し続けているのだ。今年3月の消費支出指数(二人以上の世帯、季節調整値、2015年=100)は名目96.3、2000年以降では東北大震災が起こった2011年3月(95.9)を除けば、最も低い。第2次安倍内閣発足の2012年12月の消費支出指数は99.2だったが、今年3月はそれを2.9%下回っている。2013年の消費支出指数は伸びているが、それは2014年4月に消費税率が引き上げられたからである。2014年3月をピークに消費支出指数は低下基調を辿ることになる。雇用が改善されてきたけれども、消費は一向に良くならないのである。
『家計調査』によれば、2016年の可処分所得(勤労者世帯、1ヵ月当たり)は42.8万円と2年連続で増加したが、消費支出は前年比1.8%減と3年連続のマイナスだ。2016年の平均消費性向(消費支出・可処分所得比率)は72.2%と2015年から3.1ポイントも低下し、2001年(72.1%)以来15年ぶりに低い消費性向となった。
可処分所得は増加したとはいえ、2015年と2016年はそれぞれ0.9%、0.3%伸びたにすぎず、伸びたという手応えが感じられるほどではない。2016年の可処分所得を安倍内閣発足の2012年と比較すると0.8%、2013年とでは0.2%の増加にとどまる。金融危機後の2009年、可処分所得は3.3%も減少したが、その後はだらだらとほぼ横ばいの状態が続いている。
特に、消費マインドを冷やしているのは、世帯主収入(男)が2016年まで3年連続の前年割れになっていることが影響しているように思う。2016年の世帯主収入(男)は2008年比では5.0%も減少しており、2012年比でも0.2%の微増である。
2008年と2016年では直接税は同額だが、公的年金、健康保険、介護といった社会保険料が13.9%も増加しており、家計はこれの圧迫により他の支出を減額せざるを得ないのだ。
これからも家計は収入の増加を期待できないと想定しているのだろう。そうした前提に基づけば、さらに少子高齢化による社会保険料の負担増は、可処分所得を圧迫することは間違いない。こうした思いが家計に蔓延しており、消費を手控えさせているのである。
消費の低迷は物価にも表れている。3月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年比0.2%、生鮮食品・エネルギーを除くは-0.1%と安定している。2016年度では生鮮食品を除くは前年比-0.2%と2012年度(-0.2%)以来4年ぶりのマイナスだ。安倍首相再登場の2012年度と奇しくも同じマイナス幅である。政府と日銀が懸命に物価上昇を画策したけれども、物価引き上げ政策は水泡に帰した。企業への肩入れでは需要はうまれてこない。家計への減税、累進課税強化、労働環境の改善などの政策を実行しなければ、消費マインドは上向かない。
日銀はいまだに巨額の国債買い取り、株式市場への介入を繰り返しているが、資金需要が弱い状況では、日銀が金融機関に資金供給したところで、非金融部門に資金は流れていかない。金融機関にだぶついた資金は日銀に流入し、その資金で日銀は金融機関の国債を買うというだけであり、実体経済への影響はないのだ。
4月20日時点の日銀の国債保有高は420.5兆円、4年前の2013年4月20日比286.5兆円増、上場投信は13.3兆円、11.7兆円増加している。日銀の総資産は493.4兆円、4年前(174.7兆円)の2.8倍に拡大している。
金融機関が日銀当座預金を引き出す緊急事態が発生することになれば、日銀は国債を売却せざるをえなくなる。国債価格は急激に値下がりすることになるだろう。平時では日銀の資産拡大も支障なく企てられるが、非常事態に直面すれば、超過準備という負債の膨張は命取りになる。

関連資料サイズ
170501).pdf394.01 KB