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飽くなき美人投票

日経平均株価は1989年末のバブル後の高値を更新し、1992年1月9日以来、約26年ぶりの高値を付けた。自民党の衆議院選での大勝、米株の過去最高値更新、日銀の上場投信買いへの期待、為替相場のほどよい水準、企業業績の拡大などが株高要因として挙げられる。週間では9月第2週以降9週連続の伸びとなるが、外人の買い越しは9月第4週以降であり、それまでは委託ではなく自己が大幅に買い越していた。10月30日週までの6週におよぶ外人買い越し額は累計2.47兆円と巨額だが、10月30日週の買い越し額はその前の週の6,678億円から472億円に縮小した。その代りに自己が最大の買手となり、自己はこれで4週連続の買超である。
株価の上昇に伴い、売買代金も増加し、10月27日からは連続で3兆円(東証1部)を超えており、1日の値幅が800円を超えた9日には5兆円近くまで膨らんだ。昨年の1日当たりの売買代金(2.62兆円)と比較すると最近の売買高がいかに活発になっているかがわかる。
1日の値幅がこれだけ大きくなることは、市場参加者はかなり相場に神経質になっているからだろう。過去9週間の日経平均株価の値上がり幅が3,400円ともなれば、株価はかなりの高水準に舞い上がっているとだれもが不安を覚えるのは当然だ。
実体経済をみても特別な変化を読み取ることはできず、株式だけがひとり浮かれているのである。コールレートをマイナスに誘導、10年債利回りも0.035%(10日)とゼロに近い水準に釘付けし、資金調達コストが極端に低下していることが株式活況の最大の理由だ。しかも、資金の有望な投資先が限られ、実物投資への資金需要が少なければ、資金は株式に向かうことになろう。さらに日銀が株式を買うというのだから、なおさら下値不安は払拭され、株式市場は投機が投機を呼ぶという博打場と化している。
次々とあらわれる日本企業のでたらめな経営、これらは氷山の一角に違いない。従業員が過労死しても、労働時間の削減を実行すると宣言する企業はまったく出てこない。正規雇用を積極的に増やす企業や有給休暇の完全消化を実施するという企業も聞かない。育児休暇を男が採ることは憚られる。こうした企業体質こそ日本を衰退させている最大の要因なのだ。それでも株価は上がるのだから不思議である。
OECDによれば、日本の一人当たり年労働時間は1,713時間(2016年)、最も少ないドイツ(1,363時間)よりも350時間多く働いている。8時間労働であれば43日間にもなる。一人当たりのGDPはドイツの48,989(US$、2016年)に対して日本は41,541とドイツよりも15.2%も少ない。いかにドイツは少ない労働時間で効率的な生産を行なっているかが窺える。日本の一人当たりのGDPはOECD加盟国中19位であり、2000年の2位をピークに順位を下げている。
企業は労働時間だけが長く、中身のない労働をさせてきた付けが徐々にあらわれてきているといえる。人口減少下にありながら従来とかわらない長時間労働を評価する人事を踏襲するならば、生産性の低下、GDPの減少が確実に起こるだろう。
株式流通市場は活況を極めているが、株式の本来の役目である資金調達に目を向けると、発行市場はその機能をほとんど果たしていない。昨年の株式による資金調達額は1.1兆円、今年は1月~9月で6,255億円とまったく閑古鳥が鳴いている状況である。株式市場は流通市場という日々の売買だけの博打場に成り下がってしまっているのだ。美人投票に明け暮れ、だれよりも一歩先んじて売買することに専念している。美人も市場に晒されていれば、飽きてしまい、次の美人を探すことになる。こうした美人投票の繰り返しで市場は動いているのである。だから、流通市場での投票は社会的に最善のものとはならない。
大企業を中心に内部資金はきわめて潤沢であり、調達よりもむしろ運用に頭を悩ましている。日本企業にとって株式発行市場などもはや必要ではないのだ。昨年、企業の株式買い越し額は2.1兆円、今年は9月までに1兆円を買い越しており、企業は重要な買手なのである。
週末の東証1部の時価総額は663.3兆円に膨れ、名目GDPの1.2倍を超えた。1989年末のバブルの頂点では1.4倍をこえたけれども、その後、2006年までは1.0倍を超えることはなかった。2008年の金融危機後、0.5倍まで低下したが、安倍政権と黒田日銀総裁の登場により、時価総額・名目GDP比率は急上昇し、2015年以降は1.0倍を超え、現時点では1989年末以来、28年ぶりの高い比率に上昇している。
売買回転率(東証1部、代金)は1989年でも61.1%であったが、2004年以降は100%超が常態化しており、今年で14年連続ということになる。特に、黒田総裁が大規模緩和を推進した2013年には169.6%まで上昇し、まさに株式流通市場はバブル期以上に加熱した。
景気一致指数は9月、115.8(2010年=100)と前月比1.9ポイント低下したが、8月は2007年10月以来、約10年ぶりの強い数値であった。長期の推移をみても、一致指数はかなり高い水準にあることは間違いない。10-12月期の機械受注(船舶・電力を除く)は前年比1.8%減少する見通しであり、そうなれば4四半期連続の前年割れとなる。現金給与総額も実質では前年割れが続いており、消費意欲も低調である。
こうした実体経済に鑑みれば、いまの日本株は浮かれすぎだ。美人投票に明け暮れていれば、実体経済など眼中にはいらないだろう。そしていつのまにか空高く舞い上がってしまい、実体経済とは掛け離れてしまうことになる。バブルとはそういうものだ。投機家はすでに実体は見えなくなっている。それでもまだ美人を追い求めるゲームは続くのだろうか。

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