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(続)悲しいかな、FRBも日銀も盲目なのだ

17日のFOMC声明によれば、「委員会は2%をやや上回る程度のインフレ率の達成を目指す」、「2%をやや超えるような軌道に乗るまで、この目標誘導レンジを維持することが適切だと予想する」という。新たに発表された経済予測によれば、今年のPCE物価指数(エネルギー・食品を除くコア、第4四半期の前年比)の伸びは2.0%~2.3%であり、今年1月の1.5%とは大きな開きがある。物価目標を達成するためには、まだまだゼロ金利を続けなければならないことを訴え、正当化しようとしている。 

だが、PCEコアが直近で2%を超えたのは、実質GDPが3.0%の高い成長をした2018年であり、それでも2.1%までであった。それ以前だと2012年4月まで遡らなければならない。第2次石油危機に見舞われとき、PCEコアも1981年には約10%まで高騰したが、その後は右肩下がりとなり、1996年4月には2.0%を下回った。2008年の金融崩壊以前の数年間は2.0%を上回ったけれども、それでも最高で2.5%にとどまっており、物価は十分に抑制されていたのである。このように長期のPCE物価の動向を検討しても、2%の目標は適切ではない。

米国経済の成熟に伴い、実質経済成長率の伸びが鈍化していることが、物価に表われているのだ。2000年頃にはITバブルが発生したが、ITによって経済成長率の鈍化を止めることはできなかったのである。米実質GDPの伸びを10年毎に比較すると、黄金時代と言われている1960年代の成長率が最も高く年率4.26%(1970/1960)であった。オイルショックの影響もあり1970年代は3.16%にダウン、1990年代(3.31%)と2000年代(3.43%)は盛り返したものの、2010年代は1.73%、2020年までの10年間は新型コロナの発生により1.67%へと低下し、2000年までの10年間の半分以下に急減速した。

おそらく、長期トレンドが覆り、米経済成長率が再び高い成長軌道に回復することはないだろう。政治的ないがみ合いは解消せず、多くのエネルギーが政治に向けられることが、経済の阻害要因になるのではないか。所得格差の拡大による低所得者層の増加が購買力を削いでいる。一方、米国経済は、所得・資産格差を作り出している金融経済に偏り、経済構造が脆弱になっていることも先行きを不安にさせる。

長期成長率の低下傾向に歯止めは掛からず、2030年までの10年間はさらに低成長を余儀なくされるだろう。低成長は取りも直さず需要の伸びが鈍化することであり、供給が一定であれば、価格は下落することになる。超過供給の状態が持続し、しかも需給ギャップは開いていくのではないだろうか。FOMCが、2%超えまでの物価上昇を容認するといっても、もうそこまで物価を上げるようなパワーは、米国経済にはないのだ。

実体経済の長期低迷を支えるためには金融経済の肥大化しかないのである。金融経済でめしを食うためには、金利はできるだけ低い方がよい。ゼロ金利を長く続けることによって経済の体裁を保とうとしている。嘆かわしいことだ。

製造業の衰退は米国経済の足腰が衰えていることであり、その影響は経済の全身にまで及び、全体を蝕んでいくだろう。物づくりは単に経済的損失だけでなく、身体機能の劣化を通してさまざまな分野に悪影響をおよぼす。1%台の低成長では米国の地位は急速に低下し、中国が予想以上に早く世界経済のトップの座に就くかもしれない。

金融経済の肥大、膨張は早晩、破綻することになるが、その時期をなるべく先延ばしする金融政策がゼロ金利なのだ。2%超までの物価上昇が達成できないという理由付けをし、いつまでも、だらだらとゼロ金利を続ける意図が読み取れる。

長期のPCEコア(前年比上昇率)とFFレートの関係をみると、両者には説明できるような関係はなくなっていることが分かる。特に、1990年代半ば以降はFFレートの上げ下げと物価には一定の法則を見出すことはできない。過去25年程度、物価上昇率は2%程度で安定的に推移していたが、FFレートは最高が6.5%、最低はゼロの変動幅であった。FFレートをいかに操作しても、物価はほとんどその影響を受けていないのである。両者の関係は断ち切られてしまったと言える。

FFレートを実体経済から掛け離れた低水準に釘付けしたため、金融資産は実体経済を上回る速度で拡大し、そのことが、FFレートの実体経済に及ぼす力を失わせてしまったのだ。企業は潤沢な金融資産を保有し、金融機関からの借入を必要としなくなり、また資金コストの安い金融市場から直接調達するなど、金融機関からの借入に依存しない資金調達が普及したからである。

もはやFFレートの操作を通して実体経済を操作することはできないのである。経済の長期停滞下では景気が過熱することはなく、恒常的に冷えており、低金利やゼロ金利によって、消費支出や設備投資を増やし、実体経済を刺激することは難しい。

だからといって、ゼロ金利が正当化できるわけではない。金融経済の暴走を抑えるには、依然、FFレートの変更は有効なのである。実体経済と金融経済のバランスをとることに金融政策の目的は改めなければならない。いまの実体経済に焦点を当てた金融政策はアナクロニズムなのである。

実質GDPのFOMC予測は、昨年12月の3.7%~5.0%から今回5.8%~6.6%(第4四半期の前年比)へと大幅に引き上げられた。たとえば、今年、下限の5.8%成長を実現するには今年第1四半期以降、4四半期連続前期比1.5%成長しなければならない。前期比1.5%成長によって、2021年の実質GDPは、これまでの最高であった2019年を上回り過去最大となる。

今年第4四半期の実質GDPが前年比5.8%も伸びるのであれば、旺盛な資金需要が発生し、国債利回りは上昇しても不思議ではない。2003年頃から名目GDP(前年比伸び率)が国債利回りを概ね上回る状態が持続している。それまでは、その逆で国債利回りが名目GDPを上回っていた。国債利回りが名目GDPの伸びよりも低ければ、本来ならば、設備投資などが積極的に推し進められ、国債利回りが名目GDPの水準に近づくはずだ。

だが、過去20年近く、国債利回りは名目GDPの伸びを上回ることなく、下がり続けているのだ。ゼロ金利とFRBによる大規模な国債購入が国債相場を歪め、実体経済との正常な関係を築くことができなくなった。国債利回りという資本主義経済の中枢であるプライスメカニズムが、機能不全に陥っているのである。

FRBの金融政策は物価とも無関係になっているが、ゼロ金利の長期化によって、国債利回りと実体経済の関係も断ち切るという資本主義経済の本質を葬ろうとしている。こうした反資本主義的な金融政策は米国だけでなく、日欧でも実行されており、世界的なうねりとなっているが、そこからなにか今までとは違う経済社会像が垣間見えるようにも思えるのだが、どうだろうか。

 

注:添付のPDFファイルにグラフを掲載しています。

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