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80兆ドルの米株式と日本の人口減

ロシアのウクライナへの軍事侵攻後も株式はそれなりに値を保っている。3月11日の株価を2月23日と比較するとユーロSTOXX600が-5.9%と最も下落率が大きく、以下、TOPIX-4.3%、S&P500-0.5%となっており、米国はほぼ横ばいだ。ウクライナへのロシア侵略の影響の度合いを反映している。ただ、対ドルの為替相場は円、ユーロともに下落率は変わらず、円ドル相場は117円台へと2016年1月以来、約6年ぶりの円安ドル高、ドルユーロ相場は2020年5月以来のドル高ユーロ安である。こうした、主要通貨に対して上昇した結果、ロシア侵略後、ドル実効相場は1.8%上昇している。一方、WTIの上昇は一服しているが、ロシアの出方によっては原油やガスの供給懸念から一段高も考えられる。ただ、ロシアの侵略が予想外に早く解決に向かうことになれば、WTIは急落するだろう。過去のドルとWTIの関係をみると、ドル安のときにはWTIは上昇し、ドル高では下落していた。ドル高はすでに1年以上継続しているにもかかわらず、ロシア侵略という特殊要因によってWTIは嵩上げされている。ロシアの軍事侵攻以前から、米株の上昇に伴い投機資金がWTIに流入し、実際の需給関係に関係なく買われていたのだ。

この原油高によって物価は値上がりしているが、原油高がいつまでも続くことはなく、これまでの歴史が証明しているように、早晩、値下がりするだろう。急騰後は急落するのが必定。2月の米CPIによれば、前年比7.9%と前月よりも0.4ポイント高くなり、1982年1月以来約40年ぶり高い伸びとなった。食品・エネルギーを除くコアも6.4%と前月を0.4ポイント上回り、約40年ぶりの上昇率である。ただ、いつも指摘しているように、コアから新車と中古車を除けば4.2%に低下し、特別騒ぎ立てるようなインフレではない。ガソリンの寄与度も高く、総合指数からこれに新車と中古車の寄与度を差し引けば4.3%になる。年央になれば、前年の伸びが高くなっていることから、CPIの伸びは徐々に緩やかになるだろう。

CPIからも米国が車社会であることを裏付けている。車とガソリンはもっとも米国民の生活に密着していることから、車とガソリンの値上がりは消費者の不満を大いに高め、その矛先は政治に向けられる。車とガソリン価格の上昇はバイデン政権を脅かしつつある。

原油価格は需給よりもむしろOPEC、非OPECの談合や政治的駆け引きによって決まる。価格を需給よりも高く設定すれば、高値をいつまでも維持することはできず、需要に相応しい水準まで下落することになるだろう。人為的な価格を長期的に高値に張り付けることはできないのだ。

今はその声があまり聞こえないが、人為的CO2温暖化信奉者にとっては、原油高は原油使用量を減らすことになるので、歓迎すべきことではないか。これだけ地球の気温上昇を心配しているであれば、人為的CO2温暖化信奉者は、すぐにでも化石燃料の使用は止めるべきだと主張すべきである。原油価格が高くなればなるほど需要は減少するので、人為的CO2温暖化信奉者はさらなる原油高を望んでいるはずだ。

関心はCPIに向かいがちだが、注目すべきは米株式である。ピークからは低下したが、長期的にみれば、まだ異常に高いことは間違いない。S&P500の株価収益率は約35倍(Robert Shiller)と過去の平均に比べれば相当高い。FRBによるゼロ金利が米株式を実体経済から遊離させてしまった。FRBのパウエル議長は早々、今週のFOMCでの利上げを表明しており、平穏なFOMCになりそうだ。小幅利上げでは、ガソリン高に対する米国民の不満を和らげるには、はなはだ不十分だが、米株式にショックを与えることなく、穏便に現状を遣り過ごす方針なのだろう。物価も株価という両面戦略ではなく、やはり株式をより重視した姿勢を貫きたいのだ。利上げによって、米株式が急落することになれば、バイデン政権は11月の中間選挙で大敗するだろう。

『Financial Accounts of United States』(FRB)によれば、昨年末の米株式価額は80.1兆ドル(1ドル=117円で9,371兆円)、前年比22.6%増である。東証1部(662兆円、3月11日現在)の14倍に当たる途方もない規模である。米株式価額は、昨年第4四半期の米名目GDP(24兆ドル)の3.33倍の規模である。これは過去最高であり、リーマンショック後の2009年第1四半期の0.92倍を底にほぼ右肩上がりで推移してきた。異常な実体経済との乖離状態が続いており、金利の上昇と共に、この乖離は解消されていくだろう。株式・GDP比が2倍に低下してもまだ高いのだが、2倍と仮定すると、S&P500は3,300と現状から22%ほど下落することになり、米株式価額は約20兆ドル消滅することになる。

日本でも国内企業物価指数(110.7、2015年平均=100)は2月、前年比9.3%上昇した。素原材料指数は149.4と高騰しているが、中間財は114.3、最終財は99.1と川下へ行けば2015年の水準以下なのである。最終財のうち資本財は100.7だが、消費財は98.4と2015年の水準を下回っており、消費財の低迷が窺える。2013年、2014年にも素原材料の価格は高騰したが、その影響は最終財には及ばなかった。消費が強ければ素原材料価格の上昇を消費財に転嫁していくことも可能だが、消費が低迷していれば、到底、最終消費財の価格を引き上げることはできない。

今年2月1日現在の日本の総人口は1億2,534万人、前年比65万人減。このペースで減少すれば、向こう10年間で624万人減少し、総人口は1億1,909万人となる。新型コロナ以降、人口減は加速しており、相当深刻な状態にあると言える。2021年の名目GDPによると、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)は234兆円、一人当たり186.7万円だ。65万人の減少で、家計最終消費支出は単純に1.21兆円減となり、これだけでGDPを0.2%押し下げることになる。人口減が続く限り、こうした下押し圧力が掛かり続けるのだ。総人口は前年比-0.51%だが、15歳未満は1.66%(昨年9月1日現在)も減少しており、将来の生産年齢人口減が加速することを示唆している。

消費に負の効果をおよぼすのは人口減だけではなく、人口減の過程で若年人口の減少と高齢者の増加が生じていることも消費に打撃を与えているはずだ。『家計調査』(二人以上の世帯)によれば、2020年の勤労者世帯の月平均消費支出は30.5万円だが、65歳以上の無職世帯の消費支出は23万円と勤労者世帯よりも24.6%少ない。今後、さらに高齢者の無職世帯の増加と勤労者世帯の減少が消費を一層厳しくするだろう。

人口減少は尻に火が付いた喫緊の課題でありながら、目先の問題に眼を奪われ、放置され続けている。地方から都市への人口移動は止まず、10年もすれば、地方自治体(1,718市町村)の多くは行き詰まるのではないか。過疎化が進行すれば、ますます生活が不便になり、さらに若者が都市へ流出するという悪循環に陥る。日本はすでにそうした悪循環に陥っており、悪循環から抜け出すことができない深刻な状態下にあるのではないだろうか。20年以上に及ぶゼロ金利状態でも消費を動かすことができなかった。消費を取り巻く環境はますます悪くなっており、消費の回復は期待できないとの前提で、日本経済を再構築していかなければならない。

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