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FRBは投機家の守護神か

FRBは、昨年第4四半期の実質GDPが前年比5.5%の高い成長を示し、GDP物価指数が前年比5.8%も上昇しているにもかかわらず、25~26日開催のFOMCによれば、政策金利を据え置き、利上げは3月に実施するそうだ。FOMCの声明では「インフレが2%を大きく上回り、労働市場が堅調であることから、委員会はFF金利の誘導目標レンジの引き上げが間もなく適切になると予想する」と表明しているが、このようなGDP統計の内容を吟味するならば、「間もなく」ではなく「直ちに」利上げしなければならないのだ。

最近の米株の下落が気に掛かるのか、FRBは現実を直視せず、投機家たちの守護神のように振る舞っている。米株式の動向によっては、「引き上げが間もなく適切になる」という文言は反故にされるかもしれない。次回FOMCまでに相場がさらに崩れることになれば、利上げは回避されるだろう。これまでもパウエル議長は、もしものときは、あらゆる手段を総動員して市場を守るという立場を表明していた。こうしたパウエル議長の投機家擁護の姿勢が、米株をバブルにまで誘ったのだが。

ロシアの動向や中間選挙を控え、しかもバイデン大統領の支持率が低下しているときに、株式が暴落すれば、中間選挙で民主党は敗北し、バイデン大統領は完全に孤立するだろう。こうした問題に比べれば今の物価はそこまで逼迫したものではなく、政治を優先させたいというのが、パウエル議長の基本的姿勢ではないか。

実質GDPが前年比5.5%も成長したのは、昨年第2四半期の反動による伸びを除けば、1984年第4四半期以来37年ぶりである。前年がマイナス2.3%であったことも伸びを高くしているけれども、それでもリーマンショック後の回復では、これほど高い成長はみられなかった。

個人消費支出は前年比7.1%と第3四半期と同じ高い伸びであった。名目では13.0%も伸び、米国経済を牽引している。報酬の伸びが8%を超えており、消費者の懐は温かく、財布の紐は緩みがちになっているようだ。

昨年3月、バイデン大統領は現金や失業保険の特例加算で現金を国民に給付した。こうした措置が米国経済に予想以上の効果をもたらしたといえる。むしろ消費を煽りすぎたとも言えるのではないか。予想以上に強い消費需要が、供給能力を超えてしまい、超過需要が発生し、物価を引き上げた。現金給付額は多ければ多いほどよいというものでもないのだ。

2021年の米国経済は個人消費主導で回復した。名目GDPは23兆9924億ドル(1ドル=115円では2,759兆円、日本の約5倍)であり、個人消費支出は15兆7500億ドルである。名目個人消費支出は前年比12.1%増加し、これだけで名目GDP増加額の81.1%を占めているのだ。名目GDPに占める公的部門の割合は2021年、17.6%、前年よりも0.9ポイント低下した半面、個人消費支出は68.5%、前年比1.3ポイント上昇し、2011年以来の高い比率となった。

名目GDPの前年比伸び率からFFレートを引くと昨年第4四半期では11.7となる。1980年代以降、(GDP―FF)の上限は約5であり、下限はマイナス3であった。プラスとマイナスを繰り返しており、成長率とFFレートとはそれほど大きく離れることはなかった。しかし、リーマンショック後からはFFレートがゼロに引き下げられたため、概ね5の水準で推移してきた。それが、いまでは倍以上に格差は拡大しており、FFレートはあまりにも実体経済から離れてしまった。

経済成長率の伸びがFFレートを上回り、実体経済に比べてFFレートが低いときは、資金需要が旺盛になり、金利は上がるはずだ。だが、実際にはそのような資金需要は生まれず、10年物国債利回りでさえ1.7%程度で推移している。むしろ、ゼロ金利では預金や債券を購入しても、利息はほとんど得られず、資金は金融商品に向かうことになる。だからFFレートがゼロになり、(GDP―FF)の差が大きくなるほど、金融商品の取引は拡大していくのだ。

FRBが実体経済とFFレートの開きを放置してきたことが、株式などの金融経済の肥大化に拍車をかけた。2020年第1四半期に株式価額は前期比21.1%減価したことに危惧し、FRBは再びゼロ金利へと舵を切った。新型コロナによる経済の収縮に見舞われ、実体経済への設備投資は冷え込み、資金は株式等の金融取引に向かった。2020年第1四半期を底とし、株式価額は急回復、2021年第3四半期は75兆ドル、底から73.9%も増価した。短期間でこれほど増価したことは今までにない。

FRBが利上げを本格化し、実体経済に見合った水準までFFレートを引き上げれば、株式から預金や債券への資金シフトが起こり、株式価額は大幅に減価するだろう。物価の上昇を抑え込むためにも、FFレートは3~4%に引き上げねばなるまい。2018年第4四半期に至る過程でFFレートを2.25%まで0.25%の小刻みで利上げしたが、今回はそのような0.25%の小幅では、経済を正常な状態に近づけることはできない。

FRBが株式等の金融経済に軸足を置いた政策を遂行するならば、一握りの富裕層の懐を温めるだけで、広い層の所得・資産は変わらないだろう。米国社会の憂うべき所得・資産格差の拡大に歯止めはかからず、それが原因で社会にはぎすぎすした感情が鬱積していくのではないか。所得・資産の著しい格差が、暴力・暴動の形で噴出した惨事は過去にもたびたび起こり、現時点でも世界のどこかでみられる。

『World Inequality Database』(2021)によると、米国では上位1%が国民所得の18.8%、富の34.9%、ロシアでは46.4%、47.7%、中国では14.0%、31.0%をそれぞれ保有している。世界を見渡せば、民主主義や強権・独裁政治にかかわらず、所得・資産格差は現存しており、経済的に不平等な状態が持続している。

米国の富がこれほど集中したのは、FRBがゼロ金利などの超金融緩和策を長期間続けてきたことが一因ではないか。言うまでもなく、1980年代からの新古典派経済学が学界を席捲し、市場経済万能が蔓延ったことが主因ではあるが。

バイデン大統領も民主主義の優位性に力を入れるのであれば、米国で富の偏在を是正するための税制改革を実行しなければ、これだけの格差を縮小することはできない。自由・平等が民主主義の土台を成すが、格差社会では民主主義という言葉は空文化している。

ロシアの格差は世界トップクラスである。だから、格差から国民の目をそらすために、軍事行動を示唆し、米国やNATOを相手に対立を煽るのだ。さらに、食料やエネルギーの高自給率を背景にEUに優位なことも、ロシアの立場を強固にしている。ロシアにエネルギーという戦略物資で牛耳られているのでは、EUはロシアに対抗できない。