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FRBは金融緩和縮小に踏み切れるか

先進国の株価は昨年末を上回っているが、新興国の株価はほぼマイナスである。ブラジルやインドの株価は2割以上下落している。5月22日、バーナンキFRB議長が「今後数回の会合で資産買入を縮小していくことは可能だ」と発言したことが、新興国の株式離れを促した。さらに顕著な動きを示しているのが新興国の通貨安である。21日公表のFOMC議事録(7月30日、31日開催)では金融緩和縮小の手掛かりは得られず、各市場は小康状態を保っている。ラガルドIMF専務理事は23日、「出口を急ぐことは提唱しない。非標準的政策はそれを実施しているすべての国・地域で依然必要とされている」と述べ、FRBを牽制した。FRBの金融緩和縮小は世界の金融市場を揺るがす事態を招きかねず、その動向から目を離すことはできない。

 21日時点のFRB総資産は3.64兆ドルと1週間前の過去最高よりもやや減少したが、毎月850億ドルの資産買入により、昨年12月よりも0.74兆ドルも増加している。こうしたFRBの過去にない資産買入により、株式は過去最高を更新し、国債利回りは大恐慌後にも経験したことがない水準に低下した。株式や国債相場は米国の実体経済を反映したものではなく、まさに金融政策によって作り出されたのものだ。実体経済に基づけば、株式は買われすぎだし、国債利回りは低すぎるのである。

 FRBが金融緩和を縮小すれば株式・国債相場が逆回転することは目に見える。国内相場だけでなく、すでに下落しつつある新興国通貨・株式にも一段の売り圧力が加わり、新興国の実体経済は揺さぶられることになるだろう。1997年のアジア通貨危機の悪夢をラガルドIMF専務理事は想起したはずだ。

 だが、米国はいつまでも金融緩和を続けることはできない。金融緩和縮小の時期が早いか遅いかだけの違いである。金融緩和に依存してきた世界の金融市場を軟着陸させるためのシナリオを描くことにFRBは腐心することになる。金融政策を正常な姿に戻さなければならない一方、世界の市場にも配慮しなければならないというジレンマに陥っている。

 米商業銀行のバランスシートをみると、金融界は依然多くの問題を抱えていることがわかる。預金は拡大しているけれども、貸出は伸び悩んでおり、両者の差は広がる一方である。7月の預金は前年比7.7%増加したが、貸出は2.8%と名目GDPの伸び率にも満たない。貸出が低迷しているのは、不動産向けが0.2%とやっとプラスを維持できている程度の低い伸びにとどまっているからだ。昨年3月に約2年半ぶりに前年比プラスに転じたものの、昨年12月の1.5%をピークに低下している。商工業向けは7月、8.1%伸びているが、昨年7月の14.4%から鈍化しつつある。

 7月の預金9.49兆ドルに対して貸出7.31兆ドルと預金が貸出を2.18兆ドル上回っている。7月の現金は2.21兆ドルと貸出と預金の差額にほぼ見合う。08年8月の現金は約3,000億ドルであり、7倍以上に拡大し、いまだに過去最高を更新している。総資産に占める現金比率は16.3%に上昇する半面、貸出・総資産比率は53.8%へと低下、いずれも過去にない異常な数値である。こうした金融部門の歪みをそのままにして、金融緩和縮小に踏み切ることができるのだろうか。世界の信用を揺るがすかもしれないだけでなく、自国の信用が維持できるのかという問題もある。

 米商業銀行の現金はそのままFRBに預金され、FRBの負債に計上されている。この資金でFRBは国債等を購入、国債相場を支え、財政資金を供給している。FRBは独立機関とはいえ政府と一体と捕らえるべきだ。FRBは金融政策を執り行うのだが、実際、財政政策にも深く関わっているのである。

貯蓄と投資の差額を満たすために、あるいは有効需要の不足を補うために国が財政支出を拡大しているのである。米国の貯蓄額は2005年には2,427億ドルだったが、2012年には6,874億ドルへと拡大した。可処分所得に占める比率も2.6%から5.6%に上昇しており、金融危機後、米国の家計は消費を控え貯蓄を増やしている。可処分所得は2012年までの5年間に16.5%増加したが、個人消費支出は14.4%増と可処分所得を2.1ポイント下回った。2007年までの5年間の個人消費支出が31.9%も増加したのとは大違いであり、個人消費支出の低い伸びが米国経済低迷の原因なのである。可処分所得の伸びも2007年までの5年間29.7%に比べれば13.2ポイントも低く、これでは個人消費支出を増やすことはできず、経済の拡大も緩やかにならざるを得ない。

 雇用を回復させることで個人消費を取り戻そうとしているのだが、失業者を1,151.4万人(7月)も抱えている状態では、個人消費支出を伸ばすことは難しい。08年の金融不況期を除けば、1948年以降、失業者数がいまの水準を超えたのは第2次オイルショック後の1982年10月~1983年2月までの5ヵ月にすぎない。それほどいまの失業者数は多いということなのである。おそらく失業者数が600万人から700万人程度に減少しなければ、もとのような消費拡大ペースに戻らない。

 IMFによれば、新興国等への民間資本純流入は2012年までの4年間で5,765億ドルと2008年までの4年間の流入額425億ドルとは比べ物にならないほど増えた。だから、ラガルドIMF専務理事はFRBに釘を刺さざるをえないのだ。現地通貨で持ち続けていれば、金利が高く、値上りしていても通貨の暴落でそのような利益は吹き飛ぶだろう。まさに売りが売りを呼ぶ展開になってしまう。通貨が暴落すれば輸入物価の急騰でインフレが進み、ドル建て債務は一気に膨らみ、新興国は返済不能に陥ってしまう。

 このようなことを考えれば、FRBも金融緩和縮小に動きたいところだけれども、自国だけの理由ではなかなか踏み切ることはできないのではないか。

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